は じ め に

 
 

「ライダーのための応急手当講習に」お申込みくださいまして、誠にありがとうございます。
ここでは、受講前の予習に必要なコンテンツを掲載しています。
 
本講習は、一般的な救命講習では取り扱うことがない内容(非心停止傷病者の観察・評価や、脊椎運動制限など)が多数登場します。そのため、当日いきなり内容を見聞きするよりも、予習を頂くことで、当日の講習時間をより充実したものにしていただくことができます。
 
力だめし問題も用意していますので、お時間の許す限り、テキスト及びこのページを使用して予習を行っていただくことをお勧めします。
 

 
【重要】 テキストの取扱い
 
本講習のテキストは、お申込み時にも説明致しましたように、ご自身でダウンロードしていただくか、有料(1冊1,000円)で購入いただく方式となっております。
いずれかの方法でテキストを準備したうえで当日受講ください。
 
テキスト(PDF)のダウンロードはこちらから

 

※このテキストは、S3 Riders Aichi が独自に作成したものです。
  受講申込みをした本人様以外の方へのデータ転送やコピー、内容の改変等は禁止します。

 
 

 
バイク事故現場における市民救助者の役割

 
 

テキストP4にあるように、バイク事故は四輪車の事故に比べ致死率が高く、迅速かつ的確な救護が欠かせませんが、心肺蘇生法講習のように市民が受講できる講習もほとんどないことから、バイク事故現場で適切な対応を取り得る市民救助者は非常に少ないものです。
 
急性心筋梗塞による心停止等と違い、バイク事故が原因で傷病者が心停止になったときには、救命することが非常に難しい(P15)ものであり、血液が減少したことで心停止に至る状態については、AEDによる電気ショックの効果はありません。(P39)
そのため、生命の危険を表す体のサインを見逃さず、できる限り早く119番通報を行って救急隊員に傷病者を引き渡し、高度な医療機関へ迅速に搬送することが非常に重要となるのです。
また、体に強い力が加わったバイク事故においては、傷病者の背骨や神経が傷つくことによる後遺症の発生も防ぎたいものです。神経などの損傷は、事故そのものの衝撃で起こることよりも、傷病者自身や第三者が体を不必要に動かしたことによって生じることが多いといわれていることから、「脊椎運動制限」を考慮した救護が必要です。(P22)
 
 
次の映像は、田んぼでの尻相撲イベントの生放送中、アナウンサーが首から泥に着地してしまったために頸椎を骨折、脊髄を損傷し、その場で動けなくなってしまった際の映像です。
 
体が動かないために泥の中から起き上がることもできず、やっと周りの人が体を起こしても、神経が損傷した部位より下の体が動かせられないのがわかります。(口を開いて息をしているが、体は動かせない)
 


 
※ 無理に閲覧する必要はありません ※
 

周りにいる人たちも事故に遭ったアナウンサーが冗談で起き上がってこないのだと思っており、緊急事態が起きたのだと認識している人はいないように見受けられます。人間が緊急事態を認識し、「救護しなくては!」と心のスイッチを入れることは、非常に難しいことなのです。
 
このアナウンサーはリハビリの甲斐あって5年後に車椅子でテレビ番組復帰を果たしましたが、大きな後遺症が身体に残ってしまいました。

 

 
生命の危険があるかを評価する(心停止の判断)

 
 

消防の救命講習などは、心停止となった傷病者を救うことが主眼であり、その際に最も重要な手技である「胸骨圧迫」は、何度もトレーニングして体で覚える運動スキルといえます。
しかし、この講習は「バイク事故傷病者の生命の危険を見逃さない」ためのトレーニングが主な内容であり、これは体を動かして覚えるものではなく、考え・判断するものであるため、判断のための予備知識が必要となります。
講習内のみではなかなか理解に至らない部分もあるため、受講前に理解を深めて頂くことで、当日のトレーニングがより実のあるものとなります。

 

 
この映像は、消防の救命講習で習うことができる心肺蘇生法の解説です。心肺蘇生法のトレーニングを受講したことがある方は、おさらいをしておいてください。
 
安全を確保したうえで傷病者に接触しますが、傷病者に近づく段階で、

   ● ぐったりしている
   ● 顔などの皮膚色が蒼白かったり、土気色をしている
   ● 肩も動かして必死に呼吸をしている
 
など、「あれ、この人やばいかも!?」と感じる要素がいくつかあるかもしれません。
この第一印象が大切です。おかしいなと思ったらスイッチを入れ、最悪の事態=心停止を想定して行動することが必要です。
 
傷病者の隣に至ったら、肩を叩きながら呼びかけ、反応を確認します。
何らかの反応がなければ「心停止かもしれない!」という疑いをさらに持ち、周りに協力を求めて119番通報やAEDの手配を行います。
 
次に、傷病者の胸や腹を見て、正常な呼吸に伴う動きがしっかりあるか、それとも動きがないかを10秒以内で判断します。
動きがなければ心停止とみなし、心肺蘇生を開始します。AEDがあればあわせて使いましょう。
これが、傷病者を評価した結果、心停止だった場合の流れです。
心停止の際は1秒でも早く心肺蘇生を開始したいので、「反応がない」と評価してからの流れは実にシンプルです。その後、正常な呼吸もないと認めたら、即、心肺蘇生開始です。(テキストP17 のフローチャートもあわせてご覧ください)
 

 

 
生命の危険があるかを評価する(反応がある場合)

 
 

反応の確認を行った結果、傷病者に反応があった場合は何が必要でしょうか。
救護に関する知識がある方はいろいろな行動が浮かぶかと思いますが、一般的な救命講習ではまず触れないものの、実際の現場では絶対に必要となることがあります。
 
では皆さん、大勢の人が行きかう駅の通路で、突然めまいがして自分が倒れた場合のことを想像してみてください。もうろうとする意識の中で、突然見ず知らずの誰かがやってきて、自分の手足を触ったり、服を脱がそうとする…でも体はうまく動かない…。
相当な恐怖や不安を感じるのではないでしょうか?
 
ですから傷病者に接触した際には自己紹介をして、救助者の身分やスキルを明かし、救助の同意を得ることが必要なのです。(制服や装備を身につけた医療の専門家であっても、接触時には自己紹介を行います。)
救助者の同意を得た後も、何らかの行為を行う際には必ず傷病者に声をかけて同意を得ます。傷病者の家族などがまわりにいる場合には、その人にも自己紹介や状況の説明を行うことが必要です。
 
救助の同意を得たら、傷病者の生命を脅かす事態が起きていないかを体系立てて調べます。
出血や手足の変形などがあるとついそちらに気を取られてしまいますが、すぐに手当をしなければ数分の間に生命維持ができなくなる傷病を見落としてはいけません。
テキストP14で説明しているように、生命維持に最も大切な脳や心臓は酸素を必要としています。ですから、体の外から酸素をとりいれ、脳や心臓に酸素が至るまでの経路に沿って異常がないかを調べるのが良いのです。
 

A:気道の異常

 ●  呼吸努力(頭部の上下首振り、吸気時に鼻が開く、吸気時に腹や胸がへこむなど)

 ● 異常な呼吸音(いびき、ゼーゼー音(喘鳴)など)

 ● 呼吸努力が強いのに、鼻や口からの気流が弱い
 

B:呼吸の異常

 ● 不規則な呼吸パターン

 ● 呼吸数増加又は低下

 ● 無呼吸

 ● 呼吸努力(頭部の上下首振り、吸気時に鼻が開く、吸気時に腹や胸がへこむなど)
 

C:循環の異常

 ● 心拍数が速い又は遅い(成人の場合100回/分以上または60回/分未満が目安)

 ● 脈拍が弱い

 ● 皮膚色の異常(蒼白、まだら模様、チアノーゼ(薄青又は淺黒色))

 ● 皮膚が冷たく、湿っている(手足が一番最初に影響を受ける)

 ● 皮膚を一定時間押した後に血流が再開するまでの時間が2秒を超える
 

 ※脈の確認は十分な訓練を受けていない人には難しいので、今回の講習では脈の確認は行わず、他の要素で循環に異常があるかを判断します。

このAからCまでのいずれかに異常がある場合は、生命の危険が迫っています。まだ119番通報をしていないならば、すぐに通報しましょう。
心停止の場合と異なり、市民救助者が現場で取り得る行為には限りがありますが、傷病者の情報をいかに早く、詳細に救急隊に伝えるかが、傷病者の救命のための重要な要素となります。
 
※市民が行う応急手当は「傷病の悪化を防ぐこと」が目的であることを忘れてはいけません。
心停止の場合、現場に居合わせた人が救急隊到着までにAED使用を含む心肺蘇生を行うことが最大かつ唯一の手当ですが、非心停止の場合、手段はひとつではありません。応急手当を学ぶとつい「何かしなくては!」と思いがちですが、「悪化を防ぐ」という目的を考えると、救急隊到着まで何もせず見守るのがベストという場合も少なくありません。
 

 

 
生命の危険があるかを評価する(バイク事故の場合)

 
 

ここからはバイク事故をはじめとした高リスク受傷機転の傷病者の対応です。
事故現場は様々な危険があるため、確実な状況評価(安全確保)が必要ですし、脊椎運動制限を意識した活動が欠かせません。
この映像では、自動車にはねられた傷病者を、2名で救助します。まずは動作や言葉も真似で構いませんので、作業手順を覚えていきましょう。
 

 
事故現場という特性上、状況評価が不適切であると二次災害に直結します。危険を見つけ、排除する措置を確実に行います。形式的に「周囲の安全ヨシ!」と言うだけではいけません。また、交通事故の場合、傷病者が1名であるとは限りません。車両の下敷きになっていたり、遠くまで飛ばされたりしている傷病者もいるかもしれません。
 
安全が確保されたら傷病者に接触しますが、救助者が複数いる場合は、近く前に役割分担などの打ち合わせをしておかないと、うまく行動できません。現場に立ち入る前に役割や活動の方針を明確にしておきましょう。

 

準備ができたら「第一印象」の評価をしながら傷病者に近づきますが、傷病者が首を動かすのを防ぐため、そっと近づき、頭部保持を行ったうえで声をかけ、反応を確認します。
(頭部保持は頭側からでも顎側からでも構いません。状況に応じて使い分けます。)

 

 

頭部保持をしたまま声をかけ、反応の確認を行います。
傷病者が声を出すことができれば、気道は開通していると評価することもできます。
自己紹介を行い、救助の同意を得たうえでその後の評価などを行います。

 

必要に応じて頭部保持を交代し、A(気道)、B(呼吸)、C(循環)の評価に移ります。それぞれの評価ポイントは、テキストP29〜をご覧ください。
 
映像内では橈骨動脈で脈を確認していますが、十分な訓練を受けていないと判断が難しいので、今回の講習では脈の確認は行いません。皮膚色や皮膚の状態などから循環を評価してください。

 

循環の評価の際に傷病者の手に触れていますが、これは、体を巡る血液が減少することで起きる「ショック」の際にみられる「皮膚の冷感」や「湿り」がないかをみているものです。
ショック状態となると、体の中枢部分の血液供給を保つため、生命維持に影響がない手足の血管をギュッと締める機構が働きます。そのため、手足を流れる血液が少なくなり、ヒヤッとした状態になるほか、冷や汗により皮膚が湿った状態になります。(体温を確認しているのではありません)
 
A、B、Cの評価はじっくり時間をかけて行うものではなく、身体の明らかな異常を認識できれば結構です。ただし、「○○が××だから危険」というように、具体的根拠をもって評価できるようトレーニングしていきましょう。
A、B、Cいずれかに異常を認めた場合で、ここまでに119番通報がなされていない場合は必ず通報を行います。
 
この後は頭から足先まで異常がないか確認するため全身観察に移りますが、救急隊のように衣服を切って観察できませんから、目視による観察が主となります。
出血や損傷、変形のほか、強い衝撃が加わった証である「衣服の破れ」も見逃さないようにします。
どのような点を確認するのかは、テキストP31を参照してください。

 

全身観察で得た情報についても、119番に続報を入れるなどして、救急隊員にできる限り早く伝えるようにします。

映像にはありませんが、救急隊員到着までに、傷病者からできる限り情報を聴取して記録し、救急隊員に伝えることも大切です。はじめは会話ができたのにの、意識状態が悪化し、救急隊到着時には会話ができないということもあるのです。
傷病者が会話できるうちに必要な情報(連絡先やアレルギーなど)を聞いておかないと、病院での治療に遅れがでる可能性もあります。
何を聞くべきかは、テキストP32の「GUMBA」や「SAMPLE」を参照してください。

 

 
力試しクイズ

 
 

予習の成果を試して頂くため、「力試しクイズ」計7問を用意しました。

Q1〜Q5は四択となっていますので、番号を選択してください。
Q5及びQ6については記述式ですから、回答を記入してください。
 
皆様からの回答結果を踏まえ、講習内でどの部分を特に解説等するかを私どもで判断していきます。皆様の現在の精いっぱいの力で解答頂ければ結構です。
 
不正解が多いからといって何らかの不利益が発生するものではありませんから、安心して

お答えください。
 

 
力試しクイズへ
  

Q1.峠道のカーブの出口付近でバイク事故が発生した。不適切な対応はどれか。
 
 @救助にあたる者全員が感染防止手袋を着用した。
 A事故現場の数十メートル後方、カーブの中ほどに点火した発炎筒を置いた。
 Bカーブの入口付近に誘導員を配置し、後続車両を停止させた。
 C事故現場を見渡し、傷病者の人数やガソリン漏れなどの有無を確認した。


Q2.生命維持について、誤りはどれか。
 @脳も心臓も、酸素がなければ動くことはできず、生命維持に大きな影響を及ぼす。
 A溺水や異物で気道が塞がると、酸素を取り入れることができないため脳が機能しなくなる。そのため呼吸が停止し、酸素不足からやがて心臓も停止する。
 B上記Aの心停止の場合、胸骨圧迫のみの心肺蘇生では救命が難しく、人工呼吸を組み合わせての心肺蘇生が求められる。
 C大量の出血により心停止になった場合、人工呼吸で酸素を取り入れ、胸骨圧迫で血流を作って脳や心臓に供給することで、救命できる可能性が高い。


Q3.次の傷病者の評価等として、不適切なものはどれか。

 ・50歳くらいの男性
 ・奥さんと歩道を散歩をしている最中に突然倒れた
 ・呼びかけに対し応答しない
 ・しゃくりあげるような呼吸を繰り返している
 ・顔が蒼白い
 ・明らかな出血や変形などは認められない
 ・奥さんは慌てた様子で、「お父さんどうしたの!」と繰り返し呼びかけている

 @自転車の往来などの危険がないことを確認したうえで接触した。
 A奥さんに「私は応急手当の訓練を受けている〇〇と申します」と自己紹介したうえで、救助を行う同意を得た。
 B周りに人が集まってきたので、119番通報を依頼するとともに、近くの施設にAEDがないか探してもらうよう依頼した。
 C気道確保をして、呼吸が停止しないかを注意深く見守り、救急隊を待った。


Q4.次の傷病者の評価等として、適切なものはどれか。

 ・30歳くらいの男性ライダー
 ・カーブで単独転倒した
 ・呼び方に対し、はっきり受け答える
 ・正常な呼吸が認められ、異音や呼吸努力はない
 ・皮膚色は正常で、手を触っても冷感はない
 ・全身に痛みはなく、身体の変形や服の破れなども認められない

 @頭部保持は継続し、注意深く見守りながら救急隊を待てばよい
 A気道確保を行い、気道を開通させる必要がある
 B横向きの姿勢にして、窒息を防ぐ必要がある
 C今すぐ心肺蘇生が必要である


Q5.次の傷病者の評価等として、適切なものはどれか。

 ・40歳くらいの女性ライダー
 ・信号のある交差点を右折しようとした際に、対向直進車と衝突し、3mほど飛ばされた
 ・呼び方に対し、何も反応しない
 ・呼吸は普段より少々速く、吸う際に喉からゼーゼー音がする
 ・顔が蒼白く、手に触れるとヒヤッとする
 ・右足の骨が飛び出し、少量の出血もある

 @頭部保持は継続し、注意深く見守りながら救急隊を待てばよい
 Aヘルメットを取り外して気道確保を行い、気道を開通させる必要がある
 B添え木を用いて右足を固定するとともに、ガーゼで圧迫止血することを最優先とする
 C今すぐ心肺蘇生を開始する必要がある


Q6 この写真の事故現場において考えられる危険を、5つ以上記入してください。
 
 


Q7 ショッピングモールの駐車場出口において、歩道を走行してきた自転車と、出庫しようとした乗用車が衝突する事故が発生した。傷病者に接触して反応を確認するまでに、あなたが行うべきことを記入せよ。
※安全確保に関しては、この写真から読み取れる危険と、それを排除するための具体的行動を記入してください。ただ「安全を確保する」と書くだけではいけません。

 

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